The Social Insight Updater

2012.4.15 update

クチコミは操れるのか?

増田直紀(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)

様々な場面で都合良く(?)使われる「ネットワーク」という言葉。
ソーシャルメディアが席巻する昨今では特に、それだけで何か新しい価値が生まれ、何かを解決できそうな雰囲気もある。
では、そのつながりの構造は? コントロールする方法はある?
クールな工学的視点からそのヒントを紐解いて頂く。

つながりのキーパーソンはいつも同じとは限らない

ネットワークとは、人のネットワークを例にすれば「人と人(ノード)が線(リンク)で相互に結ばれている構造であり、誰と誰がつながっているのかが明確に規定されている状態」と定義することができる。ソーシャルメディアもその一種ではあるが、メディアの中で人と人とがどう接触しているか分からない状態では、厳密にはネットワークとは呼べない。ネットワークについては今まで様々な研究がされているが「じゃあどう役に立つか」「どう操作するか」についてはあまり示されていなかった。しかし、これを上手く管理することができれば、人間関係の円滑化や組織の生産性向上、あるいは情報伝達戦略や金融システムのリスクマネジメントまで、広く活用できる可能性がある。

ネットワークを把握するためには2つの重要なポイントがある。その一つが「中心性」。対象となるネットワークの中で、誰が一番のキーパーソン(中心的人物)かを得点方式で定量的に表す考え方で、ある基準に従ってこの人は8点、この人は6点と決めていって、その得点の高い人がキーパーソンということになる。
もっとも簡単な基準は「友人数」、つまりどれだけたくさんの人とつながっていてハブ的な役割を果たしているかということ。だが、それ以外にも基準は数多くある。例えばカウントする友人の中には、自分としかつながっていない人も、さらに多くの友人とつながっている人もいる。よってそういうハブ的な人がどれだけ友人の中にいるかという観点も必要かもしれない。あるいは友人数を直接用いない基準もある。友人の絶対数は少ないけれど、ネットワーク内にあるグループ同士の接点に位置していたり、情報伝達が途切れるか否かのポイントにいたりすれば、非常に高い得点を得ることになる、という種類の中心性の基準もある。
絵に描いてみるとわかりやすいかもしれない。例えば会社の中にあまり仲が良くない2つの課があって、もっと風通しを良くすれば改善するのに…という時には、その橋渡しをする人がいないと大変なことになる。その場合、他に友人が7人いる人がいる一方、接点にいる人の友人が3人だったとしても、友人7人の人よりも友人3人の人のほうが重要であるということになったりする。

図1

リスクマネジメントのケースについてはどうだろうか。ウイルスの院内感染を防ぐためには誰に予防接種をするべきか、という問題も、ネットワークの中心性の問題としてとらえることが有効である。30人の患者と接するけれども1つの病棟内しか移動しない看護師より、接する患者は3人でもそのために3つの病棟を移動する医師のほうが、ウイルスを拡散させるリスクが高いかもしれない。すると、この医師の中心性の得点は、接する患者は少なくても高くなる。

このように、中心性はノードがどういうつながり方をしているかをあえてシンプルにランキング化したものである。これをクチコミの流布のために応用する場合は、他にも点数に反映すべきことがあるかもしれない。インフルエンサー度合いというか、ブログ上での発言の面白さとか、文章力とかを併せて指標を作るとか。逆に、文章力があってもネットワークでのつながり方が弱いせいで少しの人にしか伝わらない…という人の立場を、その人のネットワークを操ることによって改善する方法もあるだろう。

友達と友達がつながってできる「三角形」の強さ

ネットワークのもうひとつのポイントは「三角形」。例えばFacebookで共通の友人がいると出てくる「知り合いかも?」の人と友達になれば、3人それぞれがつながっている三角形ができることになる。ネットワークの中にできる大小様々なコミュニティはこの三角形が基本になっていることが多い。
そして三角形は複雑。AとBが話していたらCの話が出て3人で会う機会が増えたり、他の2人を観察している3人目がいてどちらかの味方になったりもする。2人だとボケツッコミだけの関係だが、お笑いトリオになるとAとBがケンカするのをCがなだめたり、AとCが組んでBに突っ込んだり、といったように非常に多様な人間関係になりうる。

このような三角形が多いネットワークと、三角形の少ない枝分かれ的なネットワークでは、どちらが情報伝達力が強いのか。一言で言えば、情報が速く広がるのが三角形の少ないネットワーク。伝達のスピードは遅いけれど密度が高いのが三角形の多いネットワークということになる。それぞれ、マーケ戦術的には「情報を速く広く流布して周知させたい時」「情報の信頼性を上げて(高関与商品を)買わせたい時」という異なる目的に沿うことになる。
三角形が多いと遅くなるのは、一つ一つのグループの中で、情報がグルグル回って外に出て行きにくいから。三角形がなければ、グループの中で情報が止まってしまうことがないのでストレートに枝分かれ的に情報が伝わっていける。ただ、何か商品の情報が流れてきても、「買う」に至るまでのハードルは高い。 商品が、三角形でつながっている複数の人達から薦められれば、買う気になるかもしれない。三角形でマーケの確実性を高めるのだ。 三角形があるともう一つ嬉しいのが、三角形を構成する人同士の「類似性」。隣にいる人は似た者になりやすく、つながっている=類似しているという傾向がある。三角形を成す者たちは、さらに類似している傾向がある。似た者から薦められれば商品を買いたくもなる、というものである。

図1

想像でしかないけれど、今、世の中の三角形がどんどん失われていっているんじゃないかなと。単に友達の枝が少ないのかもしれないし、数は多くても三角形が少ないのかもしれないし、あるいはそれとは違う特別なつながり方をしているのかもしれない。
みんながもっと自分の周りに三角形を増やしたり、複数のコミュニティに三角形を持っているようになれば、たくさんの人が今よりもハッピーになれるかもしれない。企業はそれをエンジニアリングすることだってできるはず。 目的があればネットワークは変えることができる。僕はそう思っている。

※本記事は取材を元に「The Social Insight Updater」編集部が作成しました。

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プロフィール
増田 直紀

増田 直紀

現在:
東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授
専門:
ネットワーク、社会行動の数理、脳の理論
著書:
『なぜ3人いると噂が広まるのか』日本経済新聞出版社 2012
『複雑ネットワーク』近代科学社 2010(共著)
 
『私たちはどうつながっているのか』中央公論新社 2007
 
『「複雑ネットワーク」とは何か』講談社(ブルーバックス)2006(共著)
 
『複雑ネットワークの科学』産業図書 2005(共著)

 

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