2011.7.17 update
(慶応大学特任准教授/ハーバード大学visiting scholar)
Facebookの実名制と日本人、ウィキリークスによる情報露出、
SONYへのハッキング、Twitterでの実名・匿名アカウント混在・・etc.
ネット上の自分はどこまで隠蔽(?)が可能なのか、
はたまたどこまでハダカになれるのか。
慶應義塾大学准教授 ジョン・キム氏による第2回レクチャー。
ネットへの情報漏洩をどう防いでいくか、あるいは漏洩しても問題のないよう自らの行いをどう正しくしていくか・・・それに対する合理的な思考は、残念ながら日本ではできないように感じる。
海外では万が一情報が流出したとしても、その結果「得」の方が多ければ気にしない。それが日本では得:損=9:1(9よくても1のリスク)でダメ!
となり、そこでツブれる。あまりにもセンシティブな思考停止・・・。
欧米の一部の攻撃的な企業はもちろんディフェンスもするが、それだけでなく、むしろ流出情報がいかに結果としてポジティブな印象を与えられるかについての実験や姿勢もある。
日本人は何に関しても潔癖に安心を求める。食にも、セキュリティにも。
これを前向きに捉えれば、消費者の厳しい目がより衛生的な食品を作り出したり、より信頼性の高いクラウドを作り出したりすることに繋がる。しかし、リスクが残るものを消費者にテイスティングしてもらうような実験的な試みはやりづらい。
炎上マーケティングという揶揄があるが、これはアテンション・エコノミーの一種。限られた時間の中でどう消費者の興味を獲得するか。まずは最初に商品を「認知」させなければならない。
その意味では、炎上というスレスレの手段でも話題を作り出した方が「人の頭の中に存在すらしない」という状況よりはマシかもしれない。緻密な計算ができるのであれば、だが。
そもそも、すべての人に好かれようとしても何もできない。
例えば時おり極端な発言をする政治家などは計算されてるなと思う。彼らは「すべての人」に向けた発言はしない。彼らが相手にしているのは彼らの「ファン」なのだ。
薄い広いユーザーより、これからはファンをいかに育てていくのかという視点が大切になるだろう。いかに仲間意識を生み、ファンクラブ的なユーザー層をつくるか。
AKBの握手会とか、K-POPのファンクラブでは会員に特別なインセンティブを与えて他のファンと区別し、忠誠心を煽っていたりする。
ソーシャルメディアでは、友達同士も知人同士も夫婦も、すべての情報が透明になって相互監視のような状態にもなり得る。そこでは、個人がどれくらい自分の情報に統制権を持つのか/与えるのかを考慮する必要がある、
その方法は大きく2つ。[1]国家が著作権や肖像権を拡大する [2]ソーシャルメディアにおける情報の統制権を、各サービスがユーザーに最大限与える・・・であるが、現実的には後者しかないだろう。
市場が解決できる部分は大きい。「Facebookは危ない」となれば参加する人が減る→そうならないように対応する。そこに配慮できるサービスが生き残ることになるからだ。
海外ではFacebookが公共空間として捉えられているという感覚だが、日本のように同質性が重視される国では誰もがあまり「自我」を持たずにソーシャルメディアに触れている気がする。政治的・社会的な活動よりもコミュニケーションやエンターテイメントに随分と寄っている。
しかしそれも3.11以降、若干変わってきたかもしれない。Twitterを通じて社会性や連帯感を帯びる場面も出てきた。そう考えると、日本独自なソフトな形でソーシャルメディアが発展していく可能性もあるかもしれない。
日本では今、実際に国を動かしている層とTwitterを動かしている層との間に、情報の扱い方へのギャップが広がっている。これは世界的傾向でもあり、年を取って自分に実績ができると情報を守りに入る。
しかし、基本的にネットは誰でもみんな権威ゼロからのスタート。権威を持っていた人も一度身ぐるみをはがされ、モニタリングされ、改めて認められなくてはいけないというプロセスがある。一度情報が流れると一気に透明化するため、従来情報を独占/寡占していた側はその危機感でどんどん情報を隠すようになる。
だが、そのような「隠したい層」はどんどん少なくなっている。私の仮説では「絶対に隠す」派と「透明化」派、それぞれの極端な層は減り、その中間でバランスを取る層が広がっていくのではないかと考えている。
Twitterで育った評論家等も、たった一回の失言で反感を買い、一気に権威を失うことがある。彼らの基盤はTwitterなので、そこが崩れると拠り所がなくなる。
ネットでの権威は、常に検証され続けるということ。参入障壁は低いけれど、築いたものが一気に崩れるリスクが常にあるのだ。
※本記事は取材を元に作成。
ジョン・キム