The Social Insight Updater

2010.12.27 update

Twitterがインフルエンサーを生むための課題

水野 誠(明治大学商学部准教授)

2010年9月14日に更新された“Twitterの数字”によると、世界で1億7500万人が登録し、1日に9500万がツイートされているという。これは1秒間に約1100のつぶやきが、世界のどこかで起きている計算になる。
新宿御苑で毎秒どれだけの鳥がさえずっているか知るよしもないが、それよりも確実に多い数字に違いない。

しかし、つぶやきの内容はどちらも「2時間並んでラーメン食べる、なう」とか「葛西の公園で食べたイモムシ最高チチッ」的なことが多いのかもしれない。それでも、そんなつぶやきやさえずりに反応してラーメンが食べたくなったり、葛西の公園へ飛んでいく人や鳥がいれば、それは立派なインフルエンスだ。

Twitterを用いたコミュニケーションについて、明治大学商学部准教授の水野誠氏に聞いた。

どうしてつぶやきたいのか

Twitterが情報発信源としての影響力をもつためには、実質的なフォロワーの数が重要である。万単位のフォロワーがいて、実際にツイートを読んでくれるなら、また、彼らの一部がリツーイートするなら、かなり多くの人たちに影響を与える。また、何かを問いかければ有効なアドバイスを得ることもできる。しかし、それができるのは有名人に限られる。必ずしもテレビなどで名前が売れている有名人ではなくても、ある業界で顕著な業績を上げている一般人や、一定のコミュニティで影響力のある人間も含められるだろう。
また、そんな有名人に対する信頼関係がTwitterによって変わることもある。ツイートの内容によって印象が良くも悪くもなる。逆に言えば、ツイートをうまく使えば、人気をあげることもできるだろう。また、そんな有名人に対する信頼関係がTwitterによって変わることもある。ツイートの内容によって印象が良くも悪くもなる。逆に言えば、ツイートをうまく使えば、人気をあげることもできるだろう。
純粋にソーシャルメディアの中だけで影響力を持つに至る人は、時間をかければいずれ現れるかもしれないが、今のところほとんどいないと言っていい。もし現れたとしたら、なぜそうなったのか研究するのもまたおもしろいかもしれない。

SoftBankの孫正義氏は、Twitterユーザーの大成功例だろう。普通の会社のトップだったら、あそこまで自由に発言できない。底抜けの明るさがいい。
蓮舫大臣は子どもの話をつぶやくことが多い。ワーキングマザーとしての日常は、フォロワーの共感を呼ぶはず。政治家であれば政策を語るべきだと思う人もいるだろうが、むしろ、政治から離れた日常のツイートでもウケている。
このおふたりの場合、元から持っているキャラクターがあるからTwitterをうまく利用できているのだと思う。

ただ情報発信欲求は、潜在的にだれにでもある。強弱はあるだろうが、全くない人はほとんどいないに違いない。Twitterの場合は、フォロワーが少しでもいれば、そのうちの誰かが自分のツイートを見てくれるはずである。リツイートされたり、リプライされたりして自分のツイートがすこしでも拡散されれば、少しは他人に影響力を及ぼせたとうれしい気持ちになる。
オピニオンリーダーになりたいと思っている人もいるだろうが、多くの人に相手にされなくてもずっとひとつの主張を語っていきたい人もいる。そういう人たちの中に、未来のジャーナリストや評論家がいるかもしれない。

またTwitterは年齢の階層に関係なくコミュニケーションできるのがいいところだ。
Twitterやネットでは、若者が主に情報を発信する側にいるとは限らない。コンテンツの発信源はむしろ大人側にある場合だってあるだろう。たとえば、50歳代・60歳代の人のロック・ミュージシャンに関する知識は、今の若者にとって面白いということだってありうるわけで、大人側からの発信が無視できない力を持っていると思う。

拡散を起こすためにはタイムラインの「文脈」が重要

インフルエンサー・マーケティングという言葉は、誰もが同意する定義があるわけではなく、一人歩きしているように思える。実際には、たとえば新しい画期的な歯磨き剤を普及させるために、著名な歯科医や歯学部の教授をインフルエンサーとして使うというキャンペーンがある。このとき、インフルエンサーの条件は「権威」である。しかし、権威ある第三者を使ってエンドースメントを与えるのは、広告で昔からあるテクニックであり、そう新しいことはない。
一般人の中からインフルエンサーを見つけて、そこを起点にクチコミを伝播させようとするキャンペーンもある。Twitterには、クチコミを広域に伝播させる力があると期待されているが、そのためにはコミュニケーションのネットワークからハブを見つけ、望ましい方向に動かす必要がある。それができるかどうかがポイントになる。

また、情報の伝播を考える軸として「持続性」と「リアルタイム性」についても考えなければならない。
インフルエンサーによるツイートが狙い通りにフォロワーに広がったとしても、そのインフルエンスがどれだけ続くかということが次に問題になってくる。一時的なもので終わってしまうのか、本当に相手の考え方を変えるところまで影響するのか。ブランドロイヤルティを持たせるくらいまで定着すれば、効果の積み重ねでさらに大きな展開になっていくだろう。 メールを消費者送り、友達に転送するように働きかけるというクチコミキャンペーンを行ったのに、ほとんどの人が転送しなかったというケースも報告されている。雪だるま式に倍々と増えていくことは、常に期待できるわけではない。それはよほどコンテンツがおもしろいか、社会的な意義がないと無理なことである。

ただ、リアルタイム性について考えるとTwitterの可能性が見えてくる。最近、ソーシャルメディアの普及がテレビの視聴を増やしているというアメリカでの調査結果が紹介されていた。その信頼性はさておき、たしかにTwitterはテレビを見ながらでもできるわけで、テレビのようなリアルタイム性の高いメディアは、ソーシャルメディアと組み合わせると、意外なシナジーを発揮することも考えられる。

なお、私と構造計画研究所が行った研究では、企業がTwitter上でコミュニケーションを行う場合、リツイートによる情報拡散効果はフォロワー数と関係がないことがわかった。リツイートはフォロワー数に関係なく、一定のべき分布にしたがっている。つまり、企業のツイートはほとんどリツイートされることはないが、まれに爆発的にリツイートされる、ということだ。それはなぜか?それには様々な要因が絡んでいると考えられるが、ツイートの内容や単なるタイミングといった個別要因だけではなく、当の企業がいかにつぶやいてきたか、そのとき世の中で何が起きていたか、さらには各人のタイムラインで何が流れていたかという「文脈要因」が重要と予測している。
またTwitterによって企業が消費者と対話するという効果も期待できるだろう。企業が消費者に返信すると、消費者も企業に返信するようになり、対話が盛り上がることがわかっている。また、企業がポジティブな返信をすると、消費者もポジティブな返信をするという相関もある。 これは、対話の正のスパイラルを示唆しているように思える。
ただし、それがさらにどんな効果を持つかを検証することは難しい。そして、それがソーシャルメディア・マーケティング全体の抱える課題でもある。

※本記事は取材を元に作成。

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プロフィール
水野 誠

水野 誠

現在:
明治大学商学部准教授
専門:
マーケティング、消費者行動
主な研究業績:
Mizuno, M (2010), The Effects of Valence of Word-of-Mouth and Its Propagation by Non-Adopters on New Product Diffusion: An Agent-based Approach, Proceedings of the Third World Congress on Social Simulation (WCSS2010).
 
水野誠 (2009),消費者行動の複雑性を解明する:エージェントベース・モデルの可能性,流通情報,No. 481, 41(4), 29-36.
 
Mizuno, M. (2009), Complexity in Marketing and Consumer Behavior: A Brief Review for Future Research Opportunities, Proceedings of the 9th Asia-Pacific Complex Systems Conference (Complex’09), 188-194.
 
水野誠,桑島由芙 (2007), ものづくり発想のブランド戦略―マツダの取り組み,ものづくり経営学-製造業を越える生産思想(藤本隆宏編著),97-114.
 
水野誠 (2006), 日本人の階層帰属意識とその生活・消費意識へのインパクト,消費者行動研究,13(1),57-77.
 
水野誠 (2006), ロングテールはマーケティングをどう変えるか,情報処理,47(11),20-26.

 

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